いろいろおいしい。 -2ページ目

エフェスで本当のトルコ体験

文章を書く仕事をしていると、ウソをつくことが多い。

食べてもいないものをおいしいと書いたり、
見てもいないものを美しいと書いたり。
ジャーナリズムというのとは違う話になっちゃってるけど、
私は、これはこれでなかなか面白いものだと思っている。

定期的に海外への旅行記を書く仕事がある。
実際に行かせてもらえるのはまれで、たいていは空想して書く。
まずは観光局に行って資料を見て、ガイドブックを読んで、
その国の作家の本を読んだり、
在住の日本人のブログをチェックしたりする。
それから、飛行機の中から近づく町を見下ろしてみたり、
いざ着いたら偶然会ったフレンドリーな人におすすめの店を聞いたり、
けっこう真剣に空想の旅をする。
まあさすがにそこまで作ったウソを原稿に書くことはないけど。

今日は、友達とトルコ料理店に入った。
メニューを見ると、知ってる料理がいっぱいある。
なすのサラダ、これおいしいのよ。豆のペーストもいいねえ。
ピタパンを頼んで、のっけながら食べよう。
メインは羊肉。焼きたてを削いで山盛りにしたやつを、特製ソースで!

メニューを見ながら思い出した。
私はイスタンブールに空想の旅に行ったことがあったのでした。

まずは、トルコのビール、エフェスで乾杯。
オリジナルグラスがうれしい。
オリジナルグラスっていい。
このビールをおいしく飲ませよう、って思いが伝わるし
その国の人々が日常においしく飲んでる雰囲気を感じたり、
それにビールも本当の味を発揮してくれるような。気分がね。
初めてのリアルなトルコは、やさしい味と香りで、
スパイシーな料理との相性がぴったり。
トルコ料理は、すべて違う、いいにおいがするのが素敵。
にんにくの匂い、オリーブオイルの匂い、唐辛子の匂い、肉の匂い。
旅の記憶を頼りにオーダーしたメニューはどれも素晴らしくて、
私たちは大満足で小さな店を出た。

空想の旅もなかなか楽しいけれど、
味はもちろん、香りというのはやっぱりわからないものね。

どうしても欲しかったロエベとマオー

今、私が毎日の通勤に愛用しているのは、ロエベのバッグである。


全体がとてもやわらかい深いグリーンのスエードでできていて、

2重になったストラップはつやつやしたブラウンの表革。

片面にはクラシックなロエベのロゴマークが入っているのだけれど、

ひっくり返すと、大きくてPOPな字体でLOEWEと書いてあって、

それが、長い歴史を持つ国の老舗ならでは感と

毎日3時間昼休み取って人生を謳歌しちゃう感がくっついて

スペインらしい!気がして、とっても気に入っている。


これを手に入れるのはたいへんだったのです。


一足先にイタリアへ帰国するカメラマン氏を見送り、

次の日には日本へ帰る、スペイン取材最終日。

あちこち取材したあと、最後に大好きなジュエリーブランドの

デザイナーへのインタビューがあった。


場所は、マドリッドの高級ブティック街、

クラウディオ・コエーリョ通りのブティック。

先方が手配してくれたカメラマンと通訳は、

マドリッド在住の日本人ご夫婦で、

デザイナーとは古くからの友人とのこと。

思わぬ話も聞けて、インタビューはなごやかに終了した。


約束時間のすいぶん前に着いた私は、

すぐ近くにロエベのブティックがあることを知っていた。

しかし、治安が悪くて、会う人会う人に

「ひとりで歩いてはいけない」「暗くなったら外に出てはいけない」

と言われ続けたマドリッド。

通訳をしてくださった方に聞くと、

「あと30分くらいは、まだ明るいから大丈夫よ。

でもそれ以降、暗くなったら危ないから、

それまでにここから離れなさい」


というわけで、小走りにロエベへ。

バリバリのシーズンものが並ぶ

見るからに高そうな棚は素通り。時間がないからね。

これなら買えるかも、という商品群のなかに、

すぐ気になったバッグがふたつあった。

ひとつは、ブラックの表革のもの。

もうひとつが、グリーンのスエードのもの。

黒か、緑か! 時間がない。でも、ま、迷う!


人生で出合った紙袋のなかで、最も美しい紙袋を

大事にわきの下に抱えて、

やっぱりすっかり暗くなってしまったマドリッドを走った。

私には、もうひとつ、どうしても欲しいものがある!


デパートの地下にあった食料品売り場は、

広すぎて、目当てのコーナーがなかなか見つからない。

走り回って、やっとビールが並ぶ棚を発見。

マオーの缶を3本カゴに入れ、

夕食になりそうなものを探しにまた走った。


やっとつかまえたタクシーで帰り、

ホテルの部屋で、ひとりお疲れさまの宴会。

黒パンにクリームチーズを塗り、スモークサーモンをのせた

オープンサンドイッチをたくさん作って、テーブルに並べた。

マオーの缶を開け、グラスに注いで乾杯。

緊張し続けだった取材旅行も最後、

一日、ろくに水も飲まずに走り回ったせいもあって、

さぁっとしみ込んだマオーは、体中をめぐり、

あっという間にとろとろとした酔いが回ってきた。


ベッドの上には、ロエベの紙袋。

ほっとして、くたびれて、眠くなり、

スモークサーモンもマオーのグラスも

開いたスーツケースもそのままに、私は寝てしまった。

ハブエールから、脳内英単語を死守せよ

友人とふたりで、英会話のレッスンを始めた。


英会話については、一度失敗している。

仕事で、海外の人に会ったり、

たまに海外出張に行く機会があるので、

上司から英会話の習得を命じられたのが2年前。

某有名スクールに1年通って、基礎の基礎をちょっと

習ったところまではよかったのだけれど。

2年目になり、次第にキツくなる授業、忙しくなる仕事、

チケット制に甘えてあっという間に脱落。

ホントに意志が弱いよなあ。

いったいいくらムダにしたのか、

考えたくないくらいの額であることは間違いない。


英語はマスターしたい。

でも、自分の弱さも痛いほどよくわかった。

というわけで、逃げられない、続けざるを得ない、

でもあんまり怖くないシチュエーションがいいんだけどと

真剣に考えたのです。

答えは、友人とのグループレッスン。


今のところ、調子はなかなか。

契約したセンセイと、メールで連絡して時間を合わせて、

スタバなんかで待ち合わせてレッスンするというシステムなのだが、

センセイと3人で合わせた時間だから、

突発的言い訳(疲れたとか、起きられなかったとか、アタマ痛いとか)

で逃げられないし、

また、マンツーマンを基本にした料金設定なので、

ふたりで受けると安いというのもうれしい。


レッスンの内容も文句ないのだが、困ったことがひとつある。

それは、レッスンのあと、友人と飲んでしまうことである。


飲まなきゃいいじゃんと思うでしょうが、

それに実際飲まずに解散できる日もあるのだが、

いやあこれがなかなか難しいんですの。

週末、池袋だの渋谷だのに集まって、

ちょっと緊張した1時間なり2時間なりを過ごして、

中途半端な時間に外に出る。

たいてい空は暗くなってきているし、

街はにぎわっているし、

ハラも心なしか減ったような気がする。

話したいことなんて、いつだっていっぱいあるし。


というわけで、行ってしまいました。わはは。

お店は、ちょっと懐かしいHUB。

大学生のときなど、ちょっとカッコいいと思って行ったものです。

ツマミはポテトチップスかフィッシュ&チップスくらいで、

ひたすらビールを飲むところというイメージだったのだけれど、

久しぶりに行ったら、フードメニューも充実。

コロッケ、ニョッキ、ピクルスなど、

目についたものから順にわっせわっせと頼む。


ビールは、オリジナルのハブエール。

赤くて、甘くて苦くて香ばしくて、エールなんだけれど、

口に重すぎず、とってもフレッシュな感じがして飲みやすい。

パスタを揚げて、塩とか胡椒とかを鬼のようにまぶしたツマミ

(お酒を飲まない人にとっては、何の価値もないモノに違いない!)

をバリバリ噛みながら、

またほらこれがとってもしょっぱいので、

グイグイ飲んでしまった。


あとは、

学習直後の飲酒は、学習内容を脳からキレイに消去してしまう

なんてことがないのを祈るばかりです。

マヨール広場だがハイネケンで乾杯

スペインに行ってきました。


たいへんだった!


大学生のとき、初めてスペインに行って

バルセロナのサグラダ・ファミリアや

マドリッドのプラド美術館や

ピカソのゲルニカに感動して、

卒業旅行と称してさらにもう一度旅行したことがある。


でも、その時とは違っていた。

学生のお気楽観光旅行と違って、

今回は仕事なんだから、まあ当たり前なんだけれど。

お金を持っていて、しかもガードの緩い日本人は

ひったくりの大ターゲットになっており、

スペインに入国する外国人旅行者の中で

唯一日本人だけがパスポート携帯義務を免れているという。

(持ってると取られちゃうから)。

今やスペインは、なかなかハードな状況になっていたのです。


しかも、日本⇔スペイン間の直行便を運行している航空会社は

どこにもない。

ヨーロッパの大空港で乗り継ぎしなければ、

スペインに辿り着くことはできないという。

あんなに身近に感じて、大好きだと

まあ2回行ったくらいで勝手に思っていたスペインが

何だかすっかり遠くなってしまったような気がして

怖気づきながらよろよろと日本を発った。


アムステルダムを経由して、マドリッドに入り、何とかホテルへ着く。

翌日は、先にチェックインしているはずのカメラマンと

朝ロビーで待ち合わせして、早速取材に出かける予定。


このカメラマンと一緒に仕事するのは、今回が初めてである。

飛行機代がやたらと高いので、ヨーロッパに取材に行くときは、

ヨーロッパ在住のカメラマンを招くことが多い。

スペイン語はおろか、英語もままならない私のパートナーにと

探し出されたのが、ミラノに住む彼だった。

英語とイタリア語(のちに広東語もベラベラであることが発覚する)を

自在にあやつる日本人の彼は、通訳兼カメラマンという

過酷な仕事をにこやかに引き受けてくれたのだった。


取材初日。

とりあえず市内をぐるりと回り、少しでも土地勘を養いたいというくらいの

余裕があるスケジュール。

一週間、一緒に仕事をするために、まず必要なのは乾杯ですね。


マヨール広場近くのカフェのテラスで、ビールをオーダーする。

自慢じゃないが、昔からコレだけはスペイン語で言える。

「ドス セルベッサ、ポルファボール!」

来たのはなぜかハイネケンだったけれど、とにかくまずは乾杯。


いろいろ不安な取材旅行。何とか無事終わるように。

本当に祈る気持ちと、酔っぱらって逃げてしまいたい気持ちと半々で

ハイネケンのグラスを鳴らしたのが旅の始まりでした。

サミュエル・アダムスとは誰なのか

ひとの名前がついた商品というのはいい、と思う。

「し、知りません」とか言って逃げられないだけに、

その人の責任や誇りを感じて、

信頼してみようと思うし、応援したくなる。

今、名前なんて出さなくてもいろんなことができるなかで、

あえて名前を出すというのは本当にすごいことだと思う。


最近、

ある特殊で華やかな仕事を辞めて、

いきなりジュエリーメーカーを立ち上げた人に会った。

ブランド名に自分の名前をつけたその人は言う。

「カルティエもブルガリもティファニーも、創業者の名前でしょう。

でも日本では、ジュエラーの名前というと、

意味のわからない欧文や、

変に凝ってメルヘンチックな言葉を当てはめたりしますね。

でも私は、自分のブランドを作ったとき、

自分の名前をつけなければと思ったんですよ。

カルティエみたいにね」


なるほどと思った。

長く着物を着ていた日本はジュエリーの文化が乏しくて、

ジュエリーに関わる仕事をしている私は

日本産ジュエリーの

デザインのオリジナリティのなさや

つくりの悪さや、ボリュームの貧弱さを

勝手に常々憂いていたのだったけれど、

エラそなこと言いながら、そんなこと考えてもみなかった。


そうなのかもしれないなあ。

リングの幅を1mm広げることや、

ペンダントにイタリアのチェーンを通すことなんて上っ面じゃなくて、

そっから始めないといけないのかもしれないなあ。


というわけで。とにかく名前はエライということで。


何飲んだんだっけ。

おお、サミュエル・アダムズ・ボストン・ラガーでした!


表参道のメキシコ料理やでの夕食中、

何杯目かで出合ったそれは、

さっきまでのヤツとは違って、

いきなりしっかりした自己主張を始め、

一口飲むたびに、

何か言ったほうがいいかしら的プレッシャーと

とにかく素敵なおいしさが交錯して

そう簡単にガバガバはいかせてくれず。

私はくたくたに煮込まれたチリ豆を

カリカリに焼いたバケットになすりつけながら、

さすが名前がひとの名前なだけあるぜ!と思ったのでした。