サミュエル・アダムスとは誰なのか | いろいろおいしい。

サミュエル・アダムスとは誰なのか

ひとの名前がついた商品というのはいい、と思う。

「し、知りません」とか言って逃げられないだけに、

その人の責任や誇りを感じて、

信頼してみようと思うし、応援したくなる。

今、名前なんて出さなくてもいろんなことができるなかで、

あえて名前を出すというのは本当にすごいことだと思う。


最近、

ある特殊で華やかな仕事を辞めて、

いきなりジュエリーメーカーを立ち上げた人に会った。

ブランド名に自分の名前をつけたその人は言う。

「カルティエもブルガリもティファニーも、創業者の名前でしょう。

でも日本では、ジュエラーの名前というと、

意味のわからない欧文や、

変に凝ってメルヘンチックな言葉を当てはめたりしますね。

でも私は、自分のブランドを作ったとき、

自分の名前をつけなければと思ったんですよ。

カルティエみたいにね」


なるほどと思った。

長く着物を着ていた日本はジュエリーの文化が乏しくて、

ジュエリーに関わる仕事をしている私は

日本産ジュエリーの

デザインのオリジナリティのなさや

つくりの悪さや、ボリュームの貧弱さを

勝手に常々憂いていたのだったけれど、

エラそなこと言いながら、そんなこと考えてもみなかった。


そうなのかもしれないなあ。

リングの幅を1mm広げることや、

ペンダントにイタリアのチェーンを通すことなんて上っ面じゃなくて、

そっから始めないといけないのかもしれないなあ。


というわけで。とにかく名前はエライということで。


何飲んだんだっけ。

おお、サミュエル・アダムズ・ボストン・ラガーでした!


表参道のメキシコ料理やでの夕食中、

何杯目かで出合ったそれは、

さっきまでのヤツとは違って、

いきなりしっかりした自己主張を始め、

一口飲むたびに、

何か言ったほうがいいかしら的プレッシャーと

とにかく素敵なおいしさが交錯して

そう簡単にガバガバはいかせてくれず。

私はくたくたに煮込まれたチリ豆を

カリカリに焼いたバケットになすりつけながら、

さすが名前がひとの名前なだけあるぜ!と思ったのでした。