どうしても欲しかったロエベとマオー | いろいろおいしい。

どうしても欲しかったロエベとマオー

今、私が毎日の通勤に愛用しているのは、ロエベのバッグである。


全体がとてもやわらかい深いグリーンのスエードでできていて、

2重になったストラップはつやつやしたブラウンの表革。

片面にはクラシックなロエベのロゴマークが入っているのだけれど、

ひっくり返すと、大きくてPOPな字体でLOEWEと書いてあって、

それが、長い歴史を持つ国の老舗ならでは感と

毎日3時間昼休み取って人生を謳歌しちゃう感がくっついて

スペインらしい!気がして、とっても気に入っている。


これを手に入れるのはたいへんだったのです。


一足先にイタリアへ帰国するカメラマン氏を見送り、

次の日には日本へ帰る、スペイン取材最終日。

あちこち取材したあと、最後に大好きなジュエリーブランドの

デザイナーへのインタビューがあった。


場所は、マドリッドの高級ブティック街、

クラウディオ・コエーリョ通りのブティック。

先方が手配してくれたカメラマンと通訳は、

マドリッド在住の日本人ご夫婦で、

デザイナーとは古くからの友人とのこと。

思わぬ話も聞けて、インタビューはなごやかに終了した。


約束時間のすいぶん前に着いた私は、

すぐ近くにロエベのブティックがあることを知っていた。

しかし、治安が悪くて、会う人会う人に

「ひとりで歩いてはいけない」「暗くなったら外に出てはいけない」

と言われ続けたマドリッド。

通訳をしてくださった方に聞くと、

「あと30分くらいは、まだ明るいから大丈夫よ。

でもそれ以降、暗くなったら危ないから、

それまでにここから離れなさい」


というわけで、小走りにロエベへ。

バリバリのシーズンものが並ぶ

見るからに高そうな棚は素通り。時間がないからね。

これなら買えるかも、という商品群のなかに、

すぐ気になったバッグがふたつあった。

ひとつは、ブラックの表革のもの。

もうひとつが、グリーンのスエードのもの。

黒か、緑か! 時間がない。でも、ま、迷う!


人生で出合った紙袋のなかで、最も美しい紙袋を

大事にわきの下に抱えて、

やっぱりすっかり暗くなってしまったマドリッドを走った。

私には、もうひとつ、どうしても欲しいものがある!


デパートの地下にあった食料品売り場は、

広すぎて、目当てのコーナーがなかなか見つからない。

走り回って、やっとビールが並ぶ棚を発見。

マオーの缶を3本カゴに入れ、

夕食になりそうなものを探しにまた走った。


やっとつかまえたタクシーで帰り、

ホテルの部屋で、ひとりお疲れさまの宴会。

黒パンにクリームチーズを塗り、スモークサーモンをのせた

オープンサンドイッチをたくさん作って、テーブルに並べた。

マオーの缶を開け、グラスに注いで乾杯。

緊張し続けだった取材旅行も最後、

一日、ろくに水も飲まずに走り回ったせいもあって、

さぁっとしみ込んだマオーは、体中をめぐり、

あっという間にとろとろとした酔いが回ってきた。


ベッドの上には、ロエベの紙袋。

ほっとして、くたびれて、眠くなり、

スモークサーモンもマオーのグラスも

開いたスーツケースもそのままに、私は寝てしまった。